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名古屋高等裁判所 昭和54年(ネ)205号 判決

控訴人(原告) 大野周

被控訴人(被告) 名古屋市

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審において拡張した請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は

一  原判決を取消す。

二  控訴人と被控訴人との間で、控訴人が被控訴人の水道局職員たる地位を有することを確認する。

三  被控訴人は控訴人に対し

1  金四七七万四三九二円及び別紙(一)未払給与一覧表の各月欄記載の金員に対するいずれも翌月一日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(同表の昭和五三年九月から同五四年三月までの各月欄記載の金員に対するいずれも翌月一日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の請求は当審において拡張した請求部分)

2  金一四五万四五三〇円及び原判決別紙(二)未払一時金一覧表の各一時金欄記載の金員に対するいずれも同表支払月欄記載の支払月の翌月一日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による金員

3  金一〇〇万円及びこれに対する昭和五二年一月一九日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による金員

4  昭和五四年四月一日以降本判決確定に至るまで毎月末日限り一ケ月金一四万〇〇五六円の割合による金員

を各支払え。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決及び第三項につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

原判決別紙(一)を本判決別紙(一)に、同九丁表八行目に「五三年八月」とあるのを「五四年三月」と、同九行目に「三七九万四〇〇〇円」とあるのを「四七七万四三九二円」と、同末行に「九」とあるのを「四」とそれぞれ改め(当審における請求拡張)、同五丁表六行目に「誘因」とあるのを「誘引」と、同丁裏六行目に「(五)」とあるのを「(四)」と、(証拠関係につき中略)各訂正する。

控訴人の当審における主張

原判決は、本件水道局計量業務職員の採用試験及び採用の実態を無視し、もつぱら形式的に右採用等の労働関係に法的評価を加え、あわせて採用する被控訴人の側の利益、便宜を尊重するのみで、採用されようとする控訴人の権利、立場を全く等閑に付している。

そもそも、控訴人は被控訴人水道局の昭和五一年度の予算が削減されるという事態が生じなければ、同年四月一日には辞令が交付されていた筈である。すなわち、前記引用の諸手続がふまれていた採用試験合格者(その選考試験には水道局側の委員も関与し、計量業務職員の適性をためす発問も用意されており、合格者にはその適性が充分担保されていたといえる。)に対しては、これ以上手続を重わることなく、例外なしに辞令が交付されるというのがこれまでの被控訴人水道局業務職員新規採用の慣行であつた。してみれば、原判決のいう「辞令交付に準ずる任命権者による任用する旨の明確な意思表示の到達」は遅くとも右最終段階の手続のときにあつたものと解すべきである。ひとり控訴人に対してのみ辞令の交付をせず、合格者名簿登載の有効期間(合格の日より一年間)を徒過したのは、被控訴人が右の慣行を無視するのみでなく、地公法一三条に定める平等取扱の原則にも背馳するものであつて、そのような恣意的な取扱は許さるべきではない。従つて、単に辞令交付がなかつたとの理由で、被控訴人が控訴人採用の事実を否定するのは許されない。

また、大日本印刷事件の最高裁昭和五四年七月二〇日第二小法廷判決は、採用内定者に対する会社側の留保解約権の行使は、その解約権の趣旨、目的にてらして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できる場合に限る旨判示しているが、本件における被控訴人が控訴人に対してなした一連の行為は、まさに一旦は控訴人を採用する旨の意思表示をしていながらこれを事実上取消すものにひとしく、そこになんら「客観的に合理的な理由」が存在しないのであるから、控訴人の採用を取消すことは許されないものというべきである。

被控訴人の答弁

控訴人の当審における主張は争う。

当審における新たな証拠〈省略〉

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は、いずれも(当審において拡張した請求をも含めて)失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由説示と同じであるから、これを引用する。

原判決一四丁裏四行目に「同号証の二」とあるのを「同号証の三」と、同六行目に「第四ないし第六号証」とあるのを「第四号証、原審における証人鈴木憲の証言によりいずれもその成立を認める乙第五、六号証」とそれぞれ訂正する。

控訴人が当審において新たに提出、援用した証拠をあわせて検討しても、いまだ右結論を左右するに足りない。

控訴人を被控訴人水道局職員として採用する行為が任用行為という新たに公法関係を設定する性質のものである以上、その行為に明確性を要求されることは蓋し当然の事理であるといわざるを得ず、この見地からみるとき、控訴人に対する辞令の交付のないことは控訴人の争わないところであり、控訴人主張の一連の手続も右辞令の交付に準ずる任命権者による控訴人を任用する旨の明確な意思表示と目することは困難である。結局、右意思表示のあつたことを認めるに足る証拠はない。

所論引用の最高裁判例も事案を異にし本件に適用するに由ないものというべきである。

よつて原判決は相当で、控訴人の控訴及び当審において拡張した請求はいずれもその理由がないので棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上悦雄 吉田宏 春日民雄)

(別紙省略)

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